次に投資という観点から見てみますと、最大の利点はleverage(レヴェレイジ)といって借入金を投資の元金と見なす仕組みです。簡単に例をあげて説明しますと、ある人が50万ドルの家を20%(10万ドル)の頭金で購入したとします。もし数年間で不動産の価格が20%上昇したとしますと、50万ドルの家が数年後には10万ドル値上がりして、60万ドルの価値を持つことになります。この場合、自己資金である頭金の10万ドルだけが20%増えたのではなく、借入金40万ドルを加えた50万ドル全体に対して20%の値上がりをしたわけです。 つまり10万ドルの投資が40万ドルの借金に助けてもらって、数年で10万ドル(100%)も増加したことになります。
家のマーケット価格から、借入金を差し引いたものをEquity(エクイティー)と言います。 先の例を使いますとマーケット価格の60万ドルから借入金の40万ドルを差し引いた20万ドルがエクイティーです。 マーケット価格が上昇すればレヴェレイジでエクイティーがどんどん増加します。このエクイティーを担保に金融機関から融資を受けることも可能です。
このレヴェレイジとエクイティーの仕組みをわかりやすくするために、現実的な例で計算をしてみましょう。 たとえばAさん夫妻が6年前に50万ドルの家を頭金20%の10万ドルを置いて購入したとします。 Aさんの家は現在だいたい80万ドルに値上がりしています。 Aさんの不動産資産が6年間で30万ドル分増えたわけです。 別の言い方をすれば、頭金10万ドルの投資が6年間で3倍になったとも言えます。 Aさんの現在のエクイティー、すなわちAさんの資産は頭金10万ドルプラス増加分30万ドルで40万ドルになります。 たとえ近い将来不動産価格が20%下落したとしてもAさんの家はまだ64万ドルの価値があり、エクイティーも24万ドルとたっぷりと残ります。しかもその間ずっと税金控除のメリットは受けつづけることができます。
さて、Aさん夫妻が今年家を売ることに決めた場合を考えてみましょう。現在のアメリカの法律では過去5年以内に2年間以上住んだ家を売った場合、一人につき25万ドル、夫婦の場合ですと50万ドルまでのキャピタルゲインには一切税金がかかりません。Aさん夫妻のキャピタルゲインは30万ドルで、これは明らかに50万ドル以下なので、Aさんのキャピタルゲインは税金の対象とはなりません。 もし80万ドルで家が売れたとすると、売却にかかる費用とローンの返済で約45万ドルかかります。 したがってAさん夫妻は80万ドルからこの45万ドルを引いた約35万ドルをそっくり受け取ることができるわけです。(個人個人で事情が異なりますので、詳しいことについては専門家におたずねください。)
さて、不動産を購入することのマイナス面にも目を向けてみましょう。借家の良い点はまずその気軽さでしょう。家の管理や修理はすべて大家さんの責任なので、家の維持管理にお金も時間もエネルギーも使わなくてすみます。また、引越しも簡単で、大家さんとの契約に従って、事前に通知をすれば比較的自由に別の家、あるいは別の地区に移ることができます。家を買ってしまうとその場所に束縛されるので、たとえ引越しの必要が生じても、さまざまな手続き(家を売るかあるいはテナントを見つけて借家にするなど)をしなければ次の場所へ移ることができません。
経済面でも借家に住むほうが自由な投資が可能です。家を買う人の中には、家を購入するときにかかるクロージングコストと頭金で貯金を使い果たしてしまう人も多いので、その後のやりくりに頭を痛めます。借家の人はその分のお金を自由に使うことも別の投資先に回すこともできます。投資の理想はdiversification、つまりいろいろな種類の投資先に財産を配分することですが、家を持っている人は、その家だけに自分の財産を集中させてしまいがちです。
また不動産はすぐに現金化することが困難です。お金が必要になったら、まず家を売りに出し、買い手を見つけなくてはなりません。最近のような売り手市場ならたぶんそれほど問題はありませんが、市場が買い手市場のサイクルに入った時には少々時間がかかるのが普通です。買い手が見つかっても、取引が終了するまでにはさまざまな手続きがあり、
それらに一ヶ月半ほどを要します。つまりお金を手にするまでに早くても二ヶ月弱、長いと数ヶ月もかかるのです。
特に短期的に見た場合、家賃のほうが月々のローンなどの支払いよりも安いことがあります。もちろん大家さん次第で家賃が上がることもありますが、最近のような不動産高騰時には、家の価格の値上がり率よりも家賃の値上がり率の方が低い傾向があります。目安としては、もし今借りている家を購入した場合の毎月の支払い額(税金控除を計算に入れたあとのもの)が、家賃を大幅に上回るようであれば、借りているほうが安いことになります。たとえば先ほどの計算では、50万ドルの家を買うと月々約2,100ドルを支払うことになりましたが、もしその家の家賃が1,800ドルだとしたら、借りるほうが安いことになります。ただし長期的には家賃はインフレに左右されますが、ローン他の支払額はほとんど変わりません。したがって一概に比較することはできませんので、個人個人の事情に合わせて決めていくことが大事です。
日本から来た人が家を探す場合、一番手っ取り早いのは、週末にあちこちのオープンハウスを見て歩くことでしょう。どのような地区でどんな家がいくら位で売りに出ているのかをだいたい把握できると思います。オープンハウスに人がたくさん集まるのはどういう家か、自分だったらどういう間取りが好みか、近所の様子はどうか、などと考えながら見ていくと、その地区のだいたいの住宅事情がわかってきます。 時間のない場合には、コンピューターでmove.com やrealtor.com などのサイトへ行って、不動産に関するいろいろな情報を調べることもできます。また不動産のセールスエージェント(リアルター)に相談すれば、それぞれの人の事情に合ったアドバイスや情報が無料でもらえます。リアルターは家の売買が成立して始めて売り手からコミッションを支払ってもらう仕組みになっていますので、安心して気軽に何でもたずねてみてください。
では、将来できるだけ高く売れる家を見つけるにはどうしたらよいでしょう。アメリカでよく言われる家を探すときの三原則は、「ロケーション、ロケーション、ロケーション」、つまり一にも二にも三にもロケーション(立地条件)が大事だと言うことです。私たちもお客さんによく、「家自体を変えようと思えば、改造したり増築したりいくらでも自分の好きなように変えられますが、家のロケーションだけは変えることができません」と説明します.
よいロケーションとは、手入れの行き届いた街並みや良い学校区など、多くの人が好ましいと感じる場所のことです。子供さんのいない場合でも、将来の値上がり率を
考えて、ある程度よい学校区に住むことをお奨めします。ただ、特に子供さんのいらっしゃる家庭では、学校のスコアをとても気にする傾向が強いようですが、学校全体の平均点が5点や10点高いことが、そのお子さんにとってそれほど大事なことなのかをよく考えていただきたいと思います。評判のよい学校に通っていても、その学校独特のプログラムを利用していないのであれば、あまり意味がないようにも思います。もしかしたら、少し平均点の低い地区にある、美しい街並みの中の広い家に住むほうがゆったりとした暮らしができるかもしれません.このようなことも考えながら、できるだけたくさんの家を見て歩くことをお奨めします。
買う前から売るときのことを考えるのはなんだかおかしいような気がするかもしれませんね。家を持つということはそれなりの責任をともなう大変なことですが、アメリカ経済のダイナミズムを直に体験できるという醍醐味もあります。アメリカ人はパーティなどでも自分の家の話をよくします。台所やバスルームを改装したときの経験談や、家のマーケット価格などの話題でもちきりになることもしょっちゅうです。家を持っていると、その人にはクレジット(信用)があると見なしてもらえますので、アメリカ人社会の中でも一歩深いお付き合いができるようになるわけです。
また、売る場合ですと、現在のような売り手市場では、いつでも売り時といえます。しかしやはり自分が住んでいる近所のリサーチをしたり、全体のマーケットの動向を観察したり、家を上手にマーケッティングする方法を調べたりして十分納得できたところでさっと売りに出すのがいいと思います。マーケットに関する資料集めやリサーチは普通どのリアルターも無料でやってくれるはずです。また、家を売買するときのコストや、修理修繕費などについても、わかるまでよく説明してもらってください。いずれにしてもよく研究して納得した上で、自分から積極的に行動することが大事です。
もう一つの大きな違いは、日本では一軒の不動産屋で売り家も貸家も持っているのが普通ですが、アメリカのいわゆる不動産屋は、売買のみを行っていることです。レンタルは専門会社があって、借りたい人はそこで貸家情報をもらいます。アメリカでは特に事情がない限り、税金などのことを考慮して家を購入する人がほとんどですから、不動産屋といえば家を売買する会社と考えられていても不思議はないのかもしれません。